大学院カリキュラム

社会基盤学科・専攻の教育ミッション

社会基盤学科・専攻の教育理念

公共という立場から、人、自然、そして社会を扱う学問、それが社会基盤学です。文明的な生活を持続的に送るうえで必要不可欠な、生命・財産の保全と人々の福祉に貢献するエンジニア、プランナー、デザイナー、マネージャー、研究者などの輩出を社会基盤学科・専攻は目指しています。従って、学問のカバーする範囲は、非常に広いと言えるでしょう。求められる人材像も多岐に渡り、良いインフラを建設し、それを長きに渡り使い続けるためのハードウェアに関わる技術者はもちろんのこと、新たなプロジェクトを創り出すという意思決定の上流側で優れた構想力を発揮する人材や、高いマネジメント力を発揮してプロジェクトを成功裏に導く人材の育成を目指しています。更に活躍のフィールドを国際的な舞台に移す際には、異なる自然条件、法体系、契約、商慣習など、日本国内では問題にならないような局面で軋轢が生じ、様々な紛争・係争が起こることがあります。このような場面では、技術力のみならず、法律や政治経済の素養を兼ね備えた人材が求められるでしょう。また、経済、社会、環境という持続可能な開発の三側面に精通し、国際競争力の向上、地域間格差や経済格差の解消、気候変動への適応や生物多様性の保全などに対し、科学技術と社会制度を通じて課題解決する組織リーダーも求められています。良い社会、素晴らしい未来を創り出すためには、ありとあらゆる知識と技術とを総動員する、というのが社会基盤学の真骨頂と言えます。実際、帝国大学工科大学初代学長を務め、我が国土木工学の父である古市公威は、次の言葉を残しています。「土木学会員は技師なり。技手にあらず。将校なり。兵卒にあらず。即、指揮者なり。(中略)指導者を指揮する人、即、所謂、将に将たる人を要する場合は土木に於て最多しとす」と。すなわち、全体を見渡した指揮者、コンダクターとして、様々なものをコーディネートして未来の社会を作っていく人材を育成することが、昔から現在までに脈々と続く社会基盤学科・専攻の哲学なのです。

教育ミッション

人、自然、社会、そして公共をキーワードとして、文明的な生活を持続的に送るうえで必要不可欠な、生命・財産の保全と人々の福祉に貢献するエンジニア、デザイナー、プランナー、マネージャー、研究者を輩出します。

社会基盤学科・専攻の目指す人材像

わたしたちを取り巻く自然・社会環境は、大きな曲がり角に直面しつつあります。その一つは、情報通信技術の急速な進展です。自然と社会を理解するための新たなデータが大量に活用可能になるとともに、人工知能等により、新たな問題の発見や理論・価値の創造が可能になってきています。また、グローバル課題の深刻化も忘れてはなりません。地球温暖化問題等、国際社会が協働して取り組むべきグローバルな課題が増加してきており、従来の途上国を対象とするイメージから、先進国・新興国も含めたグローバルスケールでの課題への取り組みへの転換が必要となってきています。近年では、自然災害が激甚化し、国内外の生命・財産が大きな危機にさらされています。科学的な基礎研究を通じた現象メカニズムの解明と、そこで開発された新技術の現場への適用・実践を通じて、人類を脅かす脅威への画期的な解決を図ることがこれまで以上に期待されるようになっています。さらに、これまでの成長中心の考え方から、多様性と受容性を重視する社会的価値の転換にも配慮することが求められます。急速なグローバル化の結果、その負の側面が世界各地で表出してきており、多様なバックグラウンドを持つ人々が協働し、お互いを認め合いながら一体化を目指していくことで、次世代価値を創造することが求められています。
以上のような意識のもと、社会基盤学科・専攻では、その教育プログラムを通じて、次のような人材の育成を目指しています。
  • (1)高い専門技術力と総合力の両者を有する人材:現場の第一線に立つメンタリティを有し、社会基盤の設計・建設・保守のプロフェッショナルとして、現場で高度な技術判断ができる人材
  • (2)豊かな想像力と高い責任感を有する人材:自然に対する敬意と畏怖の心を有し、人智の限りを尽くして真摯に想像力を発揮し、広く公共のために貢献する人材
  • (3)未曽有の課題への画期的な解決策と新たな価値を創造するイノベーション力:先端科学を駆使し、新技術を積極的に取り込みつつ、膨大な情報を的確に分析し、前例のない新たな解決策と価値とを創造する構想力、柔軟性、センスを有する人材
  • (4)高いリーダーシップ、高いマネジメント力を有する人材:高い倫理性、公共性、先見性を持ってプロジェクトを遂行する能力を持ち、複数の異分野に対する理解力、柔軟性、対応力を持つ人材の輩出。
  • (5)国際的な舞台で能力を存分に発揮し、生き生きと活躍できる人材:自らの専門性やキャリアに誇りを持ち、オープンマインドな姿勢で、異文化に対する知識と理解を有する人材
  • (6)新たな社会構築に向けたビジョンを描き人々を導ける人材:旧来の固定概念を創造的に破壊し、最先端の技術と明確な理念をもって新たな社会的価値を見いだし、次世代の社会のビジョンを構築してそれを人々にわかりやすい形で示し、その実現に向けて強いリーダーシップを持ってチャレンジする人材

社会基盤学科・専攻の卒業・修了生の活躍イメージ

当学科・専攻を卒業・修了したみなさんには、国内外の多様な分野において活躍することを期待しています。具体的には、次にあげるようなキャリアを想定しています。
①高級エンジニア
 通常のエンジニアよりも高い資質と能力を持ち、自らの技術力を武器に世界で活躍するエンジニア。主にインフラの設計・建設・保守に関するプロジェクト全体を統括し、コスト、工程、リスクを算定しながら高度なエンジニアリングジャッジを通じて、あるべき方向に誘導することのできる総合エンジニア
②ポリシーデザイナー
 国内外のインフラの整備・運営・管理にかかわる人材。国内については、国土交通省を中心としつつも、経済産業省、環境省、農林水産省、文化庁など関連する他の官庁も含まれる。国内にとどまらず海外の行政関係機関で活躍する国際公務員
③技術開発者/デザイナー
 社会ニーズに合わせ問題解決に向けた新技術を開発したり、インフラのデザイン・設計を行ったりする人材、社会基盤内外の多様な分野の先進的知見を基礎に、先端的工学技術を開発・実用化できる人材、土地の自然、歴史、文化、風景に合致したカスタムメイドの技術・デザインのできる人材
④スタートアップビジネス
 社会基盤学の特定分野で才能を最大限に活かし、メンバーが一丸となって仕事を進める勢いのあるチームを構築し、世界と伍しながら、世に出ていない新しいビジネスモデルを創り出すことで、短期間で上場を狙えるほど急激な成長を目指せる人材
⑤インフラ経営者
 国内外において、公共の観点から財政にかかわる知識を理解できるだけでなく、民間の観点から投資経営や会計に関する知識や経験を持ち、インフラの開発・経営を行えるエンジニア。また、インフラ形成・経営にあたって、新しいビジネスモデル(イノベーション)を創造できる人材
⑥研究者
 世界最高水準の研究を遂行する大学等の科学・工学研究者や新たな技術開発で組織の競争力向上や社会問題解決を実現できる企業等のR&D部門や研究所に所属するエンジニア研究者。科学技術の発展、グローバル課題へのチャレンジを通じた持続可能な社会の実現、イノベーションを通じた生産性向上による我が国の国際競争力向上に資する研究者
図1 社会基盤学科・専攻の教育理念と目指す人材像

社会基盤学専攻(大学院修士・博士課程)の教育プログラム

社会基盤学専攻(大学院修士・博士課程)の研究グループ

社会基盤学専攻(大学院修士・博士課程)には、本郷キャンパスにいる学部の教員に加えて、生産技術研究所・地震研究所の社会基盤学関連部門の教員も含めた全部で10の研究グループがあります(図6)。学生はそれぞれ1つの研究グループに所属し、各グループで指導教員から研究指導を受けます。どのグループに所属するのかは、入学の時点で定められます。各グループの指導教員およびその研究内容の一覧は、大学院入試要項で確かめることができます。

社会基盤学専攻(大学院修士・博士課程)のカリキュラムの全体像と講義の特徴

大学院では、修士・博士研究に重点を置きつつ、研究に向けて自分の関心のあるトピックについて専門的な内容を体系的に学べるように講義が設計されています。学生各自の専門性に合わせた内容を主体的に学んで欲しいという意図から、必修科目は修士・博士研究のみとなっています。当専攻の講義体系をわかりやすく理解し、学生が自身の専門性を効果的に深められるように、講義は「資源・構造・設計」「自然環境と社会」「都市・地域・グローバルシステム」という3つの分野に分類され、それぞれ基礎科目から応用科目、さらに研究へと発展的に学習できるように整理されています(図7)。
図7 社会基盤学専攻(大学院修士・博士課程)の講義体系
また、大学院のカリキュラムは、Sセメスター(4~7月)とAセメスター(10~1月)において、それぞれ第1ターム(S1、A1ターム)に基礎科目、第2ターム(S2、A2ターム)に応用科目となるように配置しています(図8)。これは、当専攻の大学院では4月入学と9月入学の学生がいることに配慮するとともに、学生の関心に応じて1年間のうちに異なる2つの分野の内容について基礎から応用まで習得できるようにすることを狙いとしています。
図8 社会基盤学専攻(大学院修士・博士課程)のカリキュラム構造(4月入学の場合)

社会基盤学専攻(大学院修士・博士課程)の受講モデルケース

自分の分野に限らす社会基盤学の関連する他分野について広く学ぶことや、専攻の教員から提供される講義のみならず、学生各自の関心に合わせて工学系研究科の他専攻や他研究科の講義を柔軟に学ぶことも推奨しています。各分野について、受講の目安となるように、ここではモデルケースを紹介します(図9)。これを参考に、学生は自分自身の目標に合わせて受講する講義を選択してください。
なお、社会基盤学専攻の大学院講義は、その多くが英語にて提供されています。これは、当専攻の大学院教育が、学生の国籍によらず、国内外で活躍する人材を育成することをめざすグローバル教育プログラムであるためです。英語が苦手な人には英語の言語教育の科目もあります。多くの留学生がいる環境で、国際的に活躍するシビルエンジニアになるための教育が提供されています。ただし、他の専攻の日本語の講義を受講し、社会基盤分野に限らない分野を学ぶ学生もいます(モデルケースでは、その一部の講義を示しています)。また、他学科・他大学から当専攻に入学した場合は、学部の日本語講義を受講し、まず基礎を重視して、学んでいくことも可能です。
図9 社会基盤学専攻(大学院修士・博士課程)の受講モデルケース

社会基盤学専攻(大学院修士・博士課程)の修了要件

《修士課程》

2年間を標準的な期間とし、修了には合計30単位以上の単位が必要なほか、修士研究を行い所定の審査に合格する必要があります。修了すると、修士(工学)が授与されます。
修士課程の修了要件

《博士課程》

博士課程については、東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻で修士を取得した学生とそれ以外の学生とで、修了に必要な要件が異なります。いずれも博士研究を行い所定の審査に合格する必要があります。修了すると、博士(工学)が授与されます。
博士課程の修了要件(東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻修士課程を修了の場合)
博士課程の修了要件(上記以外の場合)

講義科目一覧(大学院)

留学・国際インターンシッププログラム

当学科・専攻は、昨今のインフラ市場の国際化・グローバル化や日本企業の積極的な海外展開に対応するため、国際的に活躍するリーダーとなる人材の育成に力を入れています。ここでは、外国の異なる環境での生活経験や、社会や技術に関わる諸問題の発生している現場での体験、さらには世界各国の最先端の研究者や学生との交流を通じて、国際的な視野と行動力とを持った人材の教育を目指しています。そのため、比較的短期的に海外に出かける交流プログラムから、1ヶ月~半年間にわたる海外研修、国際機関でのインターンシッププログラム、さらにはダブルディグリーのための留学プログラムまで多様な機会が用意され、多数の学生が海外でいろいろな経験をしています。以下では、毎年開催されている代表的なプログラムを紹介します。

研究・教育の事例紹介

教育の質的向上、研究活動、国際化に向けた
これまでの取組みの関する記事やレポートを紹介します。