学生からみた社会基盤学科
2023(座談会)

学生から見て、社会基盤学科・社会基盤学専攻の魅力はどんなところにあるのだろうか。4名の学生に参加いただき、選んだ動機・入ってみて得た刺激・社会との繋がり・こんな人におすすめ、の4つのトピックについて話しました。

社会基盤学科を選んだ動機

渡邉:近藤さんはなにがやりたくて社会基盤学科を選んだんですか?
近藤:昔から数理は好きで興味があったのですが、駒場の教養学部で授業を受ける中で、数理だけをガチガチとやっている学科はピンとこなかった。工学部のガイダンスで話を伺った社基の先輩の言葉に惹かれて、選びました。社会基盤のスケールがかっこいいなと感じて、雰囲気も自分に合うと思いました。今は、災害避難の研究をしているのですが、入った時から決めていたわけではなく、講義を聞いていく中で、だんだんと関心が高まりました。社基に進学した年(令和元年)は台風の大きな被害が関東で二度あって、色んな先生が災害調査の話をしてくれて、減災・防災の重要性に気づいていきました。
渡邉:入ってから、やりたいことに出会えたのですね。大鳥さんはどうですか?
大鳥:僕も最初から何がやりたいとか決まっていたわけではなかったです。学部1年が終わっても、まだどういう学科に行きたいかは決まっていませんでしたが、2年生の夏学期に社会基盤学科のオムニバス型の講義を受けて、先生たちの熱量に触れて、決めました。
渡邉:熱量がすごかった?
大鳥:この人たちについていきたいなって思いました。もちろん、他の学科も先生方も熱意はあるのですけど、講義全体から、学科全体でまとまった熱意を感じました。先生方の目指す方向が共通していると感じ、惹かれました。自然との調和や、人・社会に寄り添うという姿勢にも共感しました。
渡邉:学生さんがそういう風に感じてくれるというのはうれしいね。励まされます。石井さんは大学院からきたということですが、どういう理由だったのですか?
石井:早稲田大学でも同じ分野の学科にいたのですが、フランスENPCとの大学院修士課程共同プログラムに参加したくて、受験しました。学部の時の先輩から話を聞いていて、私もENPCに行きたいと思って、選びました。
渡邉:ENPCのプログラムの魅力はなんですか?
石井:私の場合は、修士で研究に集中して取り組むというより、幅広い経験がしたいと思っていました。ENPCの修士のカリキュラムは、フィールドワークやグループワークが多くて、留学生も多くいる中、思っていた以上に色々なことが吸収できました。
渡邉:違う国、環境に身を置こうというアドベンチャー精神は素晴らしいですね。岩井さんも、同様に修士課程から来られましたが、どういう動機でしたか?
岩井:学部の時から土木分野を専攻していて、インフラの維持管理に興味はあったのですが、そのまま内部進学することを考えていました。本当に偶然なのですが、両親の大学時代の友人に東大の社会基盤学科の先生がいるということを聞いて、そこから社会基盤学科に興味を持ちました。
写真:(左)石井さん(右)ENPCでのインターン後(2021年)

入って受けた刺激

渡邉:実際に学科に入ってみて、どうでしたか?どんな刺激を受けましたか。
石井:コンクリ研に入ったのですが、学部の時は交通系の研究室だったので、わからないことが多かったのですが、大学院に入って、色々と教えてもらいました。先輩後輩もみな知識が豊富で、新しいことの呑み込みも早いと感じました。あと、大鳥さんと学生部屋が同じだったのですが、ずっと部屋で研究してて、タフだなぁと感じました。
渡邉:今の学生って新しいものに取り組むのに慣れているし、うまいよね。岩井君はどんな刺激がありましたか?
岩井:僕が所属する水谷研究室は、生産技術研究所(以下、生研)の中にあります。生研は工学系を中心とした研究所で、横の交流も活発にあって、学科に収まらず、工学系の中にいることを感じます。生研公開というまじめなイベントから、温泉卓球という先生と学生が一緒になって楽しむイベントまであって、社会基盤分野に限らない交流ができるのが魅力的です。この前は、人工培養肉の研究をしている隣の研究室に、大臣がきていて、僕たちも頑張ろうと刺激になりました。社会基盤の学生でもあり、生研の学生でもあるっていうのがいいところだなと感じています。
渡邉:一度で二度おいしいみたいなね(笑) コロナ流行の中で色んな制約があって大変だったと思いますが、色んな刺激があったというのはよかったです。大鳥君はどうですか?
大鳥:僕の場合は、学部3年4年はコロナ流行前で通常通りの対面講義ができました。教員と学生の距離の近さは印象的でした。フィールド演習という講義では、同期50人と若手の先生10人と山中湖で4日間の合宿をするのですが、本当に濃密でした。
渡邉:昼も夜もね(笑)
大鳥:たぶん、先生方、学生間、先生と学生間で、共通意識があることで距離が近くなっているのかなと思います。2年生の講義から、社会基盤のエンジニアとしてのマインドを教わって、そのマインドがベースにある中で、仲良く議論できるようになっているのかなと思います。あと、普段のプロジェクト演習でも、みんなでわちゃわちゃやるのが楽しくて刺激的な時間でした。講義が終わって暗くなっても、演習室で好き好きになんかやってるみたいな雰囲気もありました。
渡邉:演習室のようなオープンな場所で、学生さんが自由に過ごせるというのも、大学らしさがあって、いいよね。教員との距離の近さというのは僕が学生の時から違わないなあと思います。私も演習系の授業で、学生さんと教員が闊達に議論している様子がとても好きです。あと、僕は、学生さんの若い感受性を生かしながら新しいことにチャレンジして研究をしているという意識があるのですが、そういうやり方は、距離が近いからこそできるのかなとも感じます。近藤さんはどうですか?
近藤:講義や研究以外の面でいえば、学科同期の友人と旅行に行くと、同期の知識量にいつも驚かされます。鉄道とか街のことにすごく詳しかったりして、旅行がとても楽しいです。あとは、講義で橋や復興などの現場のプロジェクトの話が色々と紹介されるので、その度に、行きたい場所がどんどん増えていきます(笑)
渡邉:東日本大震災の被災地に行って、熱い議論になったって聞いたけど?
近藤:学科の友人達5・6人と3年の春休みに行って、ずっと復興の話をしていました。晩酌をしながら(笑)
渡邉:興味をもって学科に入ってみて、さらに講義や仲間に刺激されて、また興味が増えていくという循環がいいですね。
写真:(左)大鳥さん(右)フィールド演習の1コマ(2018年)

研究・活動が社会に繋がりがあると感じたこと

渡邉:次は、自分の研究と実社会との繋がりについて、聞きたいと思います。近藤さんは災害をテーマに研究してますよね?
近藤:はい。私は、学部3年の応用プロジェクトIや大学院の建築学専攻・都市工学専攻との復興デザインスタジオで、八幡浜市や宇和島市というフィールドで事前復興のプランを考えました。現地調査で、地図を持ちながら歩いていると現地の人が声をかけてくれて、大学生が東京から来て、自分のまちのことを真剣に考えてくれているのが嬉しいと言われたりして、実社会との繋がりを感じました。いつも最初はよそ者と思われてしまうのではという不安があるのですが、提案したプランを熱心に質問してくれたりして、うれしかったです。そういった関りから、提案でやりきれなかった部分を研究で克服したいという次のモチベーションが生まれました。
渡邉:現地で色んなことを感じるというのは、すごく大事な話だよね。大鳥くんはどうですか。
大鳥:情報技術などの発展によって社会は豊かになっている一方で、感染症や自然災害といった数千年前と同じ理由で人が亡くなったり、社会が被害を受けています。自然現象・自然災害の中に未解明のものがまだまだあって、研究の余地があるということが、大きな面白みだと思っています。何千年も未解明だったことを、研究によって、解明する、さらにそれが社会貢献になるというのが楽しいと思っています。同時に、どれだけやっても全部の現象を解明できるわけではないという悔しさもあります。でも、少しでも進めることができたと感じられるとうれしいですね。僕は浮体式洋上風力発電の研究をしていますが、ベースは数千年前からある風車と船です。どちらも数千年前からあるのに、まだそのシミュレーションすらまともにできない。悔しいけれどそこが面白い。
渡邉:5-10年で入れ替わる技術じゃないことをやっているんですね。そういう大きなモチベーションがあることで、壁にぶつかっても頑張れそうだね。
大鳥:社会に役立ちながら、興味の赴く研究ができる環境はありがたいです。意義があるからこそ、頑張れると思います。
渡邉:石井さんは、修士研究では、コンクリートの維持管理を研究していましたね。
石井:高速道路会社にデータを提供してもらって、実装に近い研究をしていました。実データを扱うと、原因のわからない“ずれ”がどうしてもあります。実社会の問題を対象とすると、実験とは違って、きれいではないデータと向き合うことになって、そのずれをどう解釈するかっていうことが大事なのだなと感じました。
渡邉:実データを扱うのは難しいよね。目をそむけたくなることもあるけど、そこに大事なものがあって、さらに実社会の問題を扱うという責任とも相まって、やりがいになると思います。岩井くんはどうでしたか?
岩井:人力に頼っている構造物点検の在り方を変えたいというのが研究室でもっている目標です。点検・補修が間に合わないから橋があるのに使えないという問題が現実にあります。スマートフォンのようなどこにでもあるデバイスを使って、効率的に点検できるようにすることで、維持管理を効率化し、地域の人が安全に橋を渡れるようにするために、研究・技術開発に取り組んでいます。毎日のように水谷先生と話していて、この10年が勝負、今が黎明期だという意識を持っています。そんな議論を先生としたり、同期も博士に進学して研究するということに刺激をうけて、僕も博士課程に進んで、研究しようと決めました。
渡邉:先生とそんな議論ができるのはいいですね。交通研はどうですか、近藤さん。
近藤:卒論期は週一くらいでミーティングをして、ミーティング以外では、slackでやりとりもしながら、研究を進めていました。あとは、卒論の成果発表に、6月に国際学会でモーリシャスに行ったんですけど、先生をいれて4人で一軒家を借りて、皆で料理をしたりして過ごしました。すごく楽しかったです。発表の合間やエクスカーションの海の上で、色んな国の研究者、学生と研究やキャリアの話をして、とても充実してました。
渡邉:国際学会に参加するというのも、研究をやる上での醍醐味だよね。
岩井:僕も、タイに行って、国際学会で発表しました。その間は、先生や研究室のメンバーとだいたい一緒にいたのですが、普段とは違って、研究以外の話もたくさんすることができて、いい思い出になりました。先生がめっちゃボケるんです、びっくりするくらい(笑)
渡邉:大鳥君は、これがあるから研究やめられないみたいなことってある?
大鳥:論文を仕上げた時の達成感とか、新しい発見をした時にみんなに見せてやりたいっていう気持ちとかですかね。何千年スケールの未解明ですから(笑)。問題を解けた時の喜びは本当に大きいです。
渡邉:そういった気持ちで取り組める対象を見つけることができたというのは、本当によかったね。
大鳥:はい、最初から風車に興味があったわけではなかったのですが、学科にきてから出会えて、よかったです。
写真:(左)近藤さん(右)宇和島市での講評会(2022年)

こんな人におススメ

渡邉:最後に、こんな人に社会基盤学科はおススメというのは何かありますか。僕はブラタモリ好きな人って、よく言っているんですけど、どうかな?
近藤:旅行好きなひとは間違いないですね(笑)
渡邉:旅行していて、現地の人の生活とか、自分の住む場所との違いとかに興味をもつ人は、学科の講義や演習を楽しめそうだよね。
大鳥:社会基盤学科は受け皿が広いと思います。基盤系、計画系、国際プロジェクト系と多様な分野を含んでいて、こんな人にオススメと特定できないくらい、幅が広いなと思います。あとは、工学の中でもより工学らしく、研究が社会に繋がっているということが、研究を頑張る上で背中を押してくれていることが良さだと思います。最初は大きなモチベーションがなかったとしても、社会に根差した研究からスタートすると、身近だし、考えやすいのかなと思います。
渡邉:社会への貢献というのは大きなモチベーションになるよね。研究ってなんだろう・専門ってなんだろうと迷っている学生さんにも門戸が広がっている気がしますね。
大鳥:あとは、門戸が広いからこそ、色んな同期がいて、一緒に過ごす中でたくさんの刺激を受けました。バックパックがライフワークの同期と一緒に、ベトナム・カンボジア・タイと陸路で旅したことがあって、自分ではそんな旅行は思いつきもしないのですが、行ってみて、視野が広がりました。
渡邉:石井さんと岩井さんは、大学院から来てみて、どうですか?
石井:鉄道好き、道路好きとかいろんな人がいて、学生の興味の幅が広いことを私も感じます。多様性があるから、どんな人でも入りやすくて楽しめるんじゃないかなと思います。
岩井:僕も、やっぱり人かなと思います。いろんな人に囲まれて、揉まれて、成長したいっていう人にはおすすめだと思います。前の大学の時は、学部1年から4年間ずっと土木を学ぶという環境で、学生はどうしても見ているものが土木に寄っていってしまいます。東大の大学院に来てみると、最初に教養学部で2年過ごしているからなのか、幅広い知識を身に着けて、色んな視野をもった上で土木をやっていることを感じ、驚きました。
渡邉:東大の特徴かもしれませんね。専門性を単に高めるだけだったら、4年間集中して専門の勉強をしたり、早めに研究室に入ったほうがいいかもしれません。一方、幅広く知識・教養を身につけて、色々と経験することも長い目でみて大事なことだよね。
岩井:あと、そういう環境は外から来た自分にとって刺激的だったのですけど、入った当初はもちろん苦労はありました。研究室では、信号処理を扱うのですが、学部時代はそんなことやったことなくて、研究室内でのレクチャーについていくのも大変で、裏で自力で基礎から学びました。楽ではないのですが、頑張って成長しようという人には向いていると思います。
渡邉:成長しよう・勉強しなおそうというのは大事ですね。
石井:あと、社会基盤を学んでいる人は、パブリックなマインドを持っているというか、社会のために、という意識を持っている人が多い気がします。他の学科の友人や企業の内定者と話していて、気づきました。最初に考えることが、社会のため、という思想を共通して持っているなと思います。
渡邉:なるほど。まさに“社会”基盤学ですね。いい話を聞きました。今日は、社会基盤学科の中で、何を楽しんでいるのか、何をモチベーションにしているのかを改めて知ることができて、充実した時間が過ごせました。ありがとうございました。
写真:(左)岩井さん(右)タイの国際学会にて(2021年)
渡邉教授
写真:渡邉教授