INTERVIEW
という仕事
- 石田 哲也(いしだ てつや)教授
- 1971年生まれ。博士(工学)。専門はコンクリート工学、地圏環境工学、多孔体熱力学。セメント系材料と構造のライフスパンシミュレーションなどをテーマに、幅広く研究。土木学会論文賞・吉田賞・出版文化賞、fib Award、IABSE PRIZEなど受賞多数。著書に『マンガでわかるコンクリート』等。
- 石田先生にとって憧れのエンジニアは?
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突然ですが、人の寿命ってせいぜい80年くらいですよね。僕はちょっと不摂生しているから、もう少し短いかも(笑)。それはともかく自分がこの世から消えてもなお、多くの人の役に立ち続けるインフラ、しかも美しく丈夫でカッコいい構造物を作りたいですね。ついこの前、フランスに行って色々とインフラを見てきました。こういう職業柄、海外出張に行くことが結構多いのですが、出張先で古(いにしえ)のエンジニアやアーキテクトが精魂こめて作った構造物を見るのが好きなんです。【写真1】は、今から90年以上も昔、鉄筋コンクリートという当時の最先端材料を使って作られたランシーの教会堂です。コンクリートの父とも呼ばれたオーギュストペレによるもので、コンクリートという素材を見事に使いこなした空間は感動モノです。また【写真2】は、パリの東部にあるルザンシー橋というもの。1946年に出来た橋ですが、プレストレストコンクリートと呼ばれる、部材に圧縮力をかけて外からの荷重を支えるという構造技術を確立した、フレシネーというエンジニアによるものです。時代時代で先進的な技術をうまく使いこなしながら、それでいて美しく、また長期間の風雪にも耐え、多くの人に愛されている。モノによっては100年以上のオーダーで使われるインフラをつくるというのが社会基盤学の特徴でもあるわけですが、そういった構造物を作った偉大な先人に心底憧れますね。Aコースが目指す「技術力を武器に世界に羽ばたくシビルエンジニア」というものの一つは、そういった人材像をイメージしています。
- 石田先生のやっている研究について教えてください
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長年の風雪に耐える、長持ちして美しいインフラを世に実現するために、コンクリートというものを対象にした研究を行っています。具体的には、コンクリートの性質や状態を左右するナノスケール空間で起こる現象をモデル化し、それを実構造物の大きさであるメートルレベルにまでスケールアップして、様々な環境で使われる構造物の性能をシミュレーションで予測しようとするものです。基礎的な熱力学、材料力学・化学、地球化学、などの理論に基づいてモデルを構築して、20くらいの支配方程式を連成して解いて…と細かい話をすると長くなるので止めておきますが、要は完成した構造物が、どのような環境で使われると、100年先や1000年先にどのようになるのか、コンピューター上でシミュレーションする技術開発を行っています。
こういった技術は既に、実際の構造物の健全性評価にも使われています。例えば,皆さんが良く使っている東京メトロ。銀座線は80年以上経過しているものの、割合健全性を保っている。一方で、湾岸エリアや海に近い河川の下を通るトンネルは、海水が混じる地下水がトンネル内部に入ってくることがあり、厳しい環境のところがある。こういった環境で、内部の鉄筋がどのくらいのスピードで腐食して、いつのタイミングで補修すべきか計算を行いました。数十年先まで予測を行って、最小の投資で最大の効果をもたらす維持管理戦略を立てるというものです。
だ計算も大事なのですが、やはり現場での調査も重要。最終電車が発車するのを待って、地下トンネルの中に潜入するということもしました。夜中の1時や2時に地下に居るという、非日常的でワクワクする体験だったのですが、驚いたのは働いている人の数。何百人と言う人が、様々な作業をしているんですよね。社会を支えるインフラは、こういう目に見えない作業によって支えられているんだと、改めて感動しました。
最近では更にこういった研究を発展させて、最先端の情報通信技術とシミュレーション技術を駆使して、社会を支えるインフラを安全に使い続ける技術を開発していきたいと思っています。またその他にも、二酸化炭素を活用した極めて強度の高い新材料の開発だとか、大理石のように美しく耐久性の高いコンクリートの開発、といったこれまでにない新しい材料の開発も行っています。いずれにせよ、少なくとも100年、環境によっては1000年以上もピンピンしている構造物を作りたいと思っています。 - 社会基盤学科はどういう人材を輩出するのですか?
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公共という立場から、人、自然、そして社会を扱う学問、それが社会基盤学です。従って、カバーする範囲も非常に広い。求められる人材像も、良いインフラを世に実現するためのハードウェアに関わる技術者だけではなく、新しいプロジェクトを創り出すというプロジェクトのかなり上流側で優れた構想力を発揮する人材、高いマネジメント力を発揮してプロジェクトを成功裏に導く人材などが求められます。これらは、大雑把に言えばBコースが目指す人材ですね。またCコースの看板でもある国際プロジェクトを進める際には、異なる自然条件、法体系、契約、商慣習など、日本国内では問題にならないような局面で軋轢が生じ、様々な紛争・係争が起こることがあります。そのような場面では、技術力のみならず、法律や政治経済の素養を兼ね備えた人材が求められるでしょう。良い社会、素晴らしい未来を創り出すためには、それこそ使えるものは何でも使う、というのが社会基盤学なんですよね。実際、帝国大学工科大学初代学長を務め,我が国の土木工学の父である古市公威は、次のような言葉を残しています。「土木学会員は技師なり。技手にあらず。将校なり。兵卒にあらず。即、指揮者なり。(中略)指導者を指揮する人、即、所謂、将に将たる人を要する場合は土木に於て最多しとす。」すなわち、全体を見渡した指揮者、コンダクターとして、様々なものをコーディネートして、未来の社会を作っていく人材を育成することが、昔から現在までに脈々と続く社会基盤学科のミッションなのです。【図1】
- では勉強することがたくさんですね?カリキュラムはどうなっているのでしょうか?
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構造力学や流体力学、材料、設計といった基礎的な理論を体系的に教えるカリキュラムの他に、理論をうまくつかいこなすための応用力、実践力の強化を狙った講義群を用意しています。プロジェクト演習系の講義では、複数の専門知識を駆使しながら、自分で問題を発見し解決策を見つけるトレーニングを行っています。例えば,東海・東南海・南海連動型地震で被害が想定される特定の自治体を例に取り上げ、防災対策の現状や課題を学び、命や財産を守るための手法を提案する演習や、仮想の建設会社を経営して、積算・契約の仕組みや組織マネジメント、更に与えられたルールのもとでの参加プレイヤーの行動原理を学ぶ演習等を行っています。またケースと呼ばれる事例を記した資料を用いて、実践的能力を磨くケースメソッドを活用した講義もあります。グループで行う作業や議論を多く行うので、自分の考え方をアピールする力も鍛えられますし、なによりもそういった講義を通じて皆が切磋琢磨しながら仲良くなっていくんですよね。社会基盤ではチームワークが大事になる場面が多いのですが、学生さん同士が非常に仲が良いというのが特徴であるかもしれません。【写真3】
- 海外に出かけたり留学したりする機会は用意されていますか?
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まさに「百聞は一見に如かず」で、実際の現場や実務の最前線を知ることは大変大事だと考えていますので、学生さんが海外に行ける機会を多く用意しています。海外で行われているインフラ整備プロジェクトの見学会や、数週間の海外インターンシップ、さらに大学院の学生を対象とした1年弱にわたる長期インターンシップ、フランスのグランゼコールに留学して学位を取るプログラムなどがあります。学部生から大学院生まで、それぞれの段階に応じたプログラムが充実していて、今の学生さんが心底羨ましいと思います(笑)。【写真4】は、昨年の3月に学部3年生らと行ったベトナムでの見学会の様子です。我が国の企業が関連する地下鉄や橋梁建設のプロジェクトを見て回りました。世界の第一線で活躍するエンジニアやマネージャーなどの姿に直接触れてもらうことで、勉強や研究に対するモチベーションを上げてもらいたいと考えています。海外の現場でバリバリと活躍している姿はカッコよくって、非常に刺激的です。旅先でみんなでワイワイと飲む酒や食事も美味いですし、楽しい企画です(笑)。また大学院での長期のものとして、アジア開発銀行の本部でインターンを行う制度を独自に作っています。【写真5】これは始めてから、既に15年弱経過しているのですが、国際機関の実務で問題となっている課題を研究として取り組むもので、これをきっかけにアジア開発銀行の職員として活躍している人も出てきていますよ。
- 最後に学生にメッセージをお願いします
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とにかく楽しくやることが大事だと思うので、学生さんがのびのびと成長する機会を提供したいと思います。うちの学生さんを見ても、みんな良い顔をしているし、教員同士も仲が良い(笑)。ポジティブでとても明るい雰囲気の学科だと思いますので、ぜひ社会基盤学科に進学してください。