清田 隆(きよた たかし)准教授

INTERVIEW

地盤災害予測・
軽減への挑戦
国内外の地圏災害に関する調査と研究室での実験を駆使して、
地盤災害メカニズムの解明と、
その対策に関する研究に取り組んでおられる清田先生に、
研究活動の面白さや自然を相手にすることの難しさについて
お話しいただきました。

清田 隆(きよた たかし)准教授
1973年生まれ。技術士(建設部門)、博士(工学)。専門は地盤工学。液状化、斜面崩壊等の地盤災害メカニズムの解明と対策などをテーマに研究。地盤工学会論文賞、土木学会地震工学論文賞、JC-IGS論文賞など受賞多数。著書に「地震による液状化とその対策」(共著)等。
清田先生の取り組まれているお仕事について教えてください。
 私達の生活に大きな影響を及ぼす豪雨や地震などの自然災害をひも解くと、その多くが地盤と深く関わっています。私の仕事は、このような地盤に関係する災害メカニズムの解明と、様々なレベルでの対策提案を社会に発信することです。
 私の代表的な研究テーマとしては、地震時の地盤の特異な挙動である液状化があります。本格的な液状化研究は、1964年の新潟地震以降、国内外で行われてきて知見が蓄積されてきました。その成果により、皆さんのまちの液状化ハザードマップが整備され、東日本大震災でも適切に対策工が施工されていたところでは被害はほとんど発生しませんでした。一方で、液状化した地盤が示す挙動、たとえば大変形挙動などはまだ未解明なままですし、ハザードマップの前提となっている液状化の予測精度は十分ではないことが知られています。特に予測精度の問題は将来のインフラの計画に大きな影響を与えるものだと考えています。
 自然災害への対策というと、現時点では地震対策に多くの防災資源が投じられる傾向がありますが、これは望ましいとは思えません。今後は、気候変動対策にも多くの資源が振られる必要が出てきます。だからと言って地震対策がおろそかになって良いわけではなく、限られた資源で対策を行う技術開発が求められているのです。
先生は地震災害に関する多くの調査に携わられています。
 私は現在、土木学会地震工学員会の災害調査チームのリーダーをさせていただいており、大きな地震災害が発生すると国内外問わず調査に出かけます。なので、地震が起こると私の研究室はなんだか落ち着かない雰囲気になります。大学の教員が何のために災害調査をするのかと聞かれることもありますが、私にとっては自然を理解する重要な活動であり、次代の防災技術の高度化に繋がるものです。大きな災害の全容解明は個人でどうにかなる問題ではありませんし、防災や復旧に関わる多くの人が必ずしも現場に行けるわけではありません。現場において何が起こったのかを客観的・定量的に記録し、報告することは災害調査の基本的かつ重要な仕事です。
 また、一般的には被害の規模やインパクトの大きい事象が注目されがちですが、私は既存の対策の成功例を示すことも重要だと思います。防災の目的を考えると、災害後に多くの復旧予算をつけることより、事前対策に回すことの方が尊いはずですが、特にハード対策はあまり注目されません。防災の成功例こそメディアに取り上げられ、防災施策推進のモチベーションを高める方向に向かわなければなりません。私は災害調査に同行するメディアの方に常々それを伝えるのですが、なかなか方針を変えるのは難しいそうです。そうであればなおさら、調査報告には成功例をしっかり残しておきたいと思うのです。
先生にとっての研究の面白さとはなんですか?
 この仕事の根本にあるのは、私自身が地盤そのものに魅せられていることだと自覚しています。地盤は土粒子の集合体ですが、土粒子のサイズや種類は多様であり、それらが噛み合わさった構造は微視的にも巨視的にも非常に複雑で、全体把握はほぼ不可能です。更にその強度・変形特性は水理条件、応力条件などの影響を強く受け、時間と共に強くも弱くもなります。地震なんて考えたら地盤は常時と全く異なる動きをし、極端に非線形になったと思ったらまた固くなる。こうした複雑な材料である地盤の災害メカニズムを研究していくことは、とてつもなく大きな巨人に向かっていくようなものです。やってやる!という気持ちは当然湧きますが、自然と謙虚な気持ちにならざるを得ないですね。一方で、わからないことがたくさんある分、真理というか、確からしいものにアプローチしていく高揚感は、研究の醍醐味だと思います。
 現場調査の話が長くなってしまいましたが、研究室では主に要素試験機や振動台等を用いた実験も日々行っています(写真1)。最新の成果としては、原位置試験と室内実験を組み合わせることで原地盤の液状化強度を合理的、かつ簡易に評価する手法を開発しました。この手法の特徴は、液状化に及ぼす土粒子構造の影響の程度を、地盤を伝搬するせん断波速度を用いて評価するものです。これにより、長年の地盤工学分野の課題であった「地盤の年代効果」を考慮した液状化アセスメントができる可能性が出てきました。従来手法と新しい手法とでは、たとえ検討対象地盤が同じであっても液状化に対する抵抗性が2〜3倍異なるケースもあります。この成果により、構造物の地盤耐震設計の合理化、延いては液状化対策への過剰な投資やそれに伴う対策の遅れ、および地価への悪影響を防ぐことに繋がることを期待しています。
写真1:振動台の実験装置
自然を相手にする研究の難しさはどのようなものでしょうか?
 2016年の熊本地震では、斜面の大規模な流動破壊が発生しています。私は被害調査と採取試料による実験により、クロボクや火山灰層の下にあった軽石層の強度が、地震動によって大きく低下した可能性を示しました。しかし、これは災害発生後に詳細に調査したから分かったことです。流動した斜面の勾配は10°以下。地震前にこんな緩斜面の麓に立って、この斜面が危険であると判断できたか?と考えると私はまったく自信がありません。水を含む軽石はその破砕性により強度が低下することは知識として持ってはいましたが、これほどの流動を引き起こしたことは驚愕でした。自然を相手にすることの難しさはこのようなところにあります。
 自然相手だと、これまで自分が持っていた認識が覆されることもありますが、それがきっかけで新たな問題の発見につながることもあります。思い出深い例として、パキスタンのカシミール地震によって形成された天然ダムがあります(写真2)。天然ダム形成後、私は小長井一男先生と共に半年毎に現場に通い、ダムの動きをモニタリングしていました。その結果から、モンスーン期に記録的な大雨でも起きない限り、ダムは安全だろうと結論付けました。しかし私たちの予想に反して、その年の冬、つまり乾季の雨で決壊してしまいました(写真3)。
 天然ダムの安定評価に失敗した私はここでめげず、「なぜモンスーン期ではなく乾期の雨で決壊したのか?」という疑問から徹底的に調査し直しました。その結果、現地で続いていた記録的な干ばつを終わらせた雨によってダムが決壊したことが判明し、この極端な乾燥と湿潤の作用がダムの地盤の強度を低下させた可能性があると結論付けることができました。この予測を外した苦い経験が活かされ、現在は気候変動による地盤の不安定化という大きな研究テーマとなっています。
写真2:パキスタンのカシミール地震によって形成された天然ダム
写真3:天然ダムの決壊後の様子(Dr. A. Kausarより)
国際的な活動についてもう少し詳しくお聞かせください。
 災害調査を通じての関わりが多くなりますが、国際的な調査・研究を通じて、海外の人たちとの交流・人脈を広げています。
 最近では、2018年のインドネシア・スラウェシ地震で発生した液状化をトリガーとする大規模な地盤流動のプロジェクトに関わっています。この地盤流動は、熊本地震の例よりもさらに勾配の緩い斜面で発生したもので、約3000人の方が犠牲となりました。これまで、液状化では人は死なないと言われていたため、このような大きな被害が発生したことは、私だけでなく多くの人にもショックを与えたと思います。
 この災害を受けて、私はJICAと協力してメカニズムの解明、対策・復興計画の提案をしたり、世界でも稀にみる新しい地盤災害リスクとして、インドネシアの大学と共同研究を実施したりしています。
 その他、先に挙げたパキスタンや、ネパール、台湾、メキシコ、ニュージーランドなど、調査・研究を通じて多くの関係者との交流を行ってきました(写真4、5)。留学や国際会議もいいですが、現地の調査では子どもたちのキラキラした笑顔に触れられるところが違いますね。おなかを壊したり、時には文化のすれ違いから誤解を受けたりもすることもありますが、これらもすべて異国での本当の生活に近いところで活動すればこその経験であり、「リアルな世界」を旅させてもらっていると思っています。
写真4:インドネシアでの現地調査の様子
写真5:ネパールでの現地調査の様子
どのような目標や理念を持って研究をされているのでしょうか?
 東日本大震災以降、「想定外」に対応するため災害対策は常に最悪のケースを考慮するというトレンドが出来上がりました。これは危機管理の基本ではあるのですが、多くの場合想定外力を大きくするだけで思考が停止しているように思います。
 地盤工学分野で想定外の状態というのは、豪雨と地震の複合災害です。しかも最近はゲリラ豪雨の増加により私たちのまちに生じる最悪の状態の程度や発生確率が増加していますが、それに対抗する地盤の強度を適切に見積もらない限り、単に想定被害が大きくなるだけで、市民の危機意識の低下を呼び込むことになってしまいます。しかし、数値解析手法の高度化や、計算機の大型化と比べて、地盤の強度・変形特性を直接的に評価することは、今の実務レベルの技術では非常に難しいのです。そのために私は適切に地盤の強度を見積もる研究を行っていますが、それを踏まえた上で、生じ得る最悪のケースを考えないと、フェアな評価は行えないでしょう。
 私は災害の研究をしていますが、むやみにリスクを強調するばかりではなく、地盤が本来持っている強度をその冗長性も含めて適切に評価し、無駄な投資を抑えるようなトレンドを作らなければならないと考えています。この考え方は、結局は「持続可能な発展」や「自然と共に生きる社会インフラ作り・里山再生」といったエコロジカルプランニングと同じことですね。地域の多様な地盤環境特性を科学的に認識・理解し、それを活かして無駄に地盤を抑え込む対策を行わないような社会の枠組みを作る必要があると思います。
先生にとって社会基盤学とは何でしょうか?
 固い言い回しですが、社会基盤(インフラ)に対してどのように責任を持つのかを学ぶ学問ではないでしょうか。ここで言う「責任を持つ」の意味は、建設・維持管理だけではなく新しい価値を持つ社会基盤の創造も含まれます。そして、この社会基盤の整備の程度が結局は文明の尺度と言えます。社会基盤が充実しているからこそ他の産業が成り立つことを示す例は枚挙にいとみません。防災研究をしていると、防災の原点は国と市民を豊かにすることから始まることに気づかされます。貧しい国は、自然災害だけでなくあらゆる厄災防止に投資できないのです。
 私は、社会基盤学の中で防災を専門にしており、地盤の補強技術の開発も行っていますが、それで盛土を強くしても途上国の大勢の命を救うことには直結しないかもしれません。大事なのは医療と教育であり、それを土台にして社会基盤の整備と産業の発展がなされるのです。防災研究はそのプロセスを支える影の立役者だと思っています。
最後に学生にメッセージをお願いします。
 私がいつも心に留めているのは、「人間は見たいものしか見ようとしない」生き物であることを認め、自戒することです。研究では、自分の想定する、もしくは自分が理解できる範囲で説明できることに固執し、大事な何か、ひょっとしたら新しい発見を見逃してしまうこともあり得ます。
 この点については、教員だって完璧ではなく、苦い経験もされていると思いますが、そういう話こそ将来に繋がる貴重なものです。学生さんには遠慮しないでどんどん先生の部屋に入っていき、良いことも悪いことも含めてたくさんディスカッションをしてほしいと思います。
 それから、人的ネットワークを大切にすることの重要性はよく指摘されることですが、留学生との交流ももっと充実させてほしいですね。欧米の一流大学で教育を受けたり、研究をされたりした方は皆さんおっしゃると思いますが、世界中からエリートとして集まって、生活を共にし、一緒に研究した仲間が、その後の人生においても支えあっている。社会基盤にも、優秀な学生が世界各国から集まっているので、そうした学生と公私ともに深く交流してください。20代の若い時期に時間を共にした経験は、年をとっても皆さんの人生を充実させてくれるでしょう。私は社会人を経験してから大学に入ったので、社会基盤の中では典型的な学生とは言えなかったかもしれませんが、この点だけは意識してやってきて本当に良かったと思っています。