堀 宗朗(ほり むねお)教授

INTERVIEW

最先端の研究にあるロマン統合地震シミュレーションを開発し世界最先端の研究に 取組まれている堀先生に、研究活動が持つロマンと、 地震工学における実践についてお話しいただきました。

堀 宗朗(ほり むねお)教授
1961年生まれ。Ph.D.(Applied Mechanics)。専門は応用力学、地震工学、計算工学。主な研究テーマは統合地震シミュレーションの開発や超高層ビル等の構造物モデリングなど。JACM Award for Computational Mechanics、土木学会出版文化賞などを受賞。著書に「東日本大震災の科学」(共著)、「Introduction to Computational Earthquake Engineering」等。
普段はどのような仕事をなさっているのですか?
 わたしの仕事はプログラムの設計ですが、最近は自分自身でコードはあまり書かなくなりました。そもそも今は、ひとりの天才プログラマーが全部のプログラムを作るという時代ではなく、さまざまな研究者が互いにプログラムのデザインやアルゴリズムのアイディアを提案し、議論を通じてアイディアを洗練させて皆で作るという時代になってきているといえます。
 仕事場は2つあります。ひとつは東京大学地震研究所.もうひとつは神戸にある理化学研所計算科学研究機構で、日本のスーパーコンピューター、京計算機を使うプログラムの設計をしています。地震研究所では、地震工学全般に関わる研究をしていますが、私は耐震工学に近い領域で、構造物の地震に対する応答、つまり、どのように構造物が揺れ、どのように壊れるかについて研究しています。計算機そのものは汎用性があり、建築専用などということはありません。耐震解析では土木と建築の分野の境界もなくなってきていて、最近は扱う対象が広くなってきています。例えば建築分野の原子力発電所や超高層ビルの耐震解析【図1】なども行っています。
図1:超高層ビルの構造モデリング図1:超高層ビルの構造モデリング
もう少し詳しく研究の内容を教えて下さいますか?
 今は、物質の理解は電子・原子のレベルを超えて、ヒッグス粒子のレベルに達しています。そのような時代に、断面のモーメントやせん断力を使う耐震の研究を大学で行うのは、逆に相当の覚悟が必要だと思っています。私が専門としている地震工学の分野で言えば、電子・原子のレベルにはいかなくても、材料レベルで超高層ビルの挙動を計算する、ということでもないと研究分野として魅力的では無いと思います。魅力を先端性に置き換えても良いですが、学生、つまり次世代を担う研究者・技術者を引き付けるには魅力が必要だと考えています。
 例えば、昔の超高層ビルで100人単位のエンジニアが5年かけて設計したものを、今では構造計算だけだったら1人のエンジニアが1年くらいでできる。計算とかモデルが非常に精緻になったからできるようになったのです。また、計算機の計算では要素は全部変数として抽象化されていますから、建築の専門家じゃなくても超高層ビルの計算ができる。そこにも魅力があると思っています。
 さらに言えば、我々が電卓を疑わないのと同じように、絶対ミスがないプログラムを作るべきで、その計算は徹底的にブラックボックスであるべきだと、私は主張しています。多くの先生がブラックボックスにしてはいけないという指摘をされていることはよく知っていますが、私は逆に徹底的にブラックボックスにしないと、進歩が無いと思っています。
今特に取り組んでおられる研究は何でしょうか?
 地震の予測、災害・被害と対応のシミュレーションが今の大きな課題です。「統合地震シミュレーション」といって、東京全体を対象にして、地盤がどのように揺れるか、建物がどう揺れて被害を受けるか、どのように復旧を図るべきか、という一連の過程を全部計算するという研究を行っています【図2】。計算科学、数値解析の分野では、どの規模の問題を解いているかが研究レベルの指標になっていますが、我々の研究グループのシミュレーション技術は圧倒的に高いレベルにあって、国際的に非常に高い評価を受けています。
 3.11東日本大震災に絡めると、「想定外」となった原因の一つは、現在の被害想定の方法にあると考えています。つまり最悪に近い被害をもたらした単一の地震シナリオに基づいた経験式を使う方法ですね。当然、想定された通りには地震は起こらないし、経験式には精度等の限界があります。だからといって、可能性のある複数の地震シナリオを考え、耐震解析を使った被害想定をすることは、技術的にも費用の点でも難しい。
 一方で「統合地震シミュレーション」では、都市モデルを作る初期コストはかかりますが,それを使って何通りものシミュレーションを行っていくランニングコストは極めて安い。ここに研究開発の意義があると思っています。計算機の力を使って1000通りもの地震シナリオで地震の災害や被害のシミュレーションを行うことによって想定外を無くすことができるのではないかと考えています。このような計算ができるようになると、一律に都市の耐震性を上げるのではなく、重要なものから大きい地震シナリオの被害に備える、といった地震への新しい対応ができるようになるかもしれません。地震工学は経験工学といわれる学問分野ですから、過去の被害事例に学ぶことはもちろん重要ですが、それを超えて未来を予測していくことが重要だと考えています。
 実は、地震工学は経験工学といいながらも、先人はすごいチャレンジをしてきている。つまり、この地震大国である日本で、これだけ超高層ビルを作り、新幹線もネットワーク化した。非常にイノベーティブなことですよね。この精神を大事にしたいと思っているんです。
 もちろん全てうまくいったわけではありませんので、失敗は謙虚に受け止めて改善するしかありません。しかし、火星にロケットでいくとか、再生医療を実現するとか、そういう経験したことのないものに向かう挑戦は魅力的ですよね。この日本に超高層ビルや新幹線を作ったことも同じような意味を持っていると思っていて、そういう先人の挑戦の精神は大事にしたいですね。
図2:統合地震シミュレーションによる避難行動のモデリング(高知市)図2:統合地震シミュレーションによる避難行動のモデリング(高知市)
海外との関係、国際的な活動について教えてください
 我々の統合地震シミュレーションは先端的で、海外ではトルコや中国でも同様のシミュレーションに取組んでいます。統合地震シミュレーションのトルコ版や中国版を作っていて、今は、イスタンブールの統合地震シミュレーションの共同研究をトルコと進めています【図3】。また我々の研究グループでは、知的好奇心の強い留学生や研究者が、超高層を含む最先端の研究に興味を持って取組んでいます。国際的にも最先端の構造解析をできる人はそんなにいませんので、我々の研究グループを卒業した留学生がドバイの超高層ビルの構造解析を行ったりもしています。
図3:イスタンブールの統合地震シミュレーション(ゼイティンブルヌ地区のモデル)図3:イスタンブールの統合地震シミュレーション(ゼイティンブルヌ地区のモデル)
今最先端といわれる研究に取組み始めたきっかけを教えて下さい
 「最先端」で取組んでいる研究内容は、「他の研究者を蹴散らしてオレたちが生き残る」つもりで取組んできた分野です。統合地震シミュレーションの研究を始めた15年前は被害の経験式が重宝されていた時代でした。被害データに相関関係を見つけることは面白いのですが、地盤の揺れが建物の揺れを引き起こすという因果関係は経験式になく、このような経験式は設計基準に反映されませんでした。また、東京でも約140万もの建物があって、その建物全部のデータを集めて耐震解析をすることも絶対できなかった。でも、その時、計算機の性能が高くなってきていて、建物モデルを全部自動構築して全部計算することができたら良いだろう、と考えたのがこの研究の始まりですね。
研究の目標は何でしょうか?
 統合地震シミュレーションを自然災害全般に広げることが目標です。災害には、風水害や、地盤災害もあります。このような様々な自然災害に対するシミュレーションの統合は、「正しい全体像を得る一策は、膨大な数の片々たる情報を適切に組み合わせる」という考え方に通じていて、そのような仕組みをインフラで実現することが大きな目標です。
別の言い方をすれば、マイクロソフトのOfficeを例にすると、WordもあるしExcelもある、PowerPointで作ったデータはOutlookにも貼り付けられる、そのようにデータが自由かつ多様に運用できることによって、災害対策から維持管理、都市設計までできる、というところまで行くと素晴らしいですね。そのための今までになかった道具、Officeのような役割を果たす道具として、統合地震シミュレータを作っています。
先生のご研究における根本のセオリーとは?
 「点」の性質を記述すると、「全て」を解くことができるというのが、応用力学の面白いところで、私の根本にあるものです。ニュートン力学でも、運動方程式があるから、最初の状態を記述できれば、解けばその後の状態が分かってしまうというところは共通しています。私の原理は、点の完全な情報、メカニズム、つまり支配方程式が分かれば,後は全体を解くだけである、ということです。
 つまり、都市の全体を知る必要はなくて、むしろほとんどのことは知らなくていい。ただし、点の性質の情報を使って演繹的に解くことで、いろいろなことが正しくわかる。これは面白いと思います。ニュートン力学が地震工学の根っこだとすると、運動方程式を使って人類は都市までつくったとも考えることができて、そういったことに壮大なロマンを感じています。
 私のプロジェクトにはたくさんの方々が加わって下さいましたが、メンバーには、どこかでこのロマンが共有されたと思っています。知恵は必要だけど、広範な知識は必ずしも必要ではなくて。データを処理し、原理に基づいて式を解くと、沢山のことが演繹される。これはロマンですよ。
さらに言うと、「無から有はできない」ので一般的な意味の保存則を考えると、都市を支配する原則はこれだけだとも言えます。ものやお金が流れて、たまると増える、出て行くと減る、何かを作る時はそれらが集中する。そういったことを共通の保存則を使って再現・予測ができたらといったことを考えています。
 さて、今の研究対象は都市ですが、頭の中では数理システムとして考えています。様々な問題を、点でこのように記述できたから、後は解くだけ、というように普遍化することは私にはすごく重要です。普遍化、もしくは,誰が解いても同じ答がでることによって、その誰かは次の問題に取り掛かれる、ということに繋がるからです。私が30年かけて勉強したことは、できれば次の人には3日、がんばって30分くらいで伝えられたら良いと思っています。そうすると次の人は自分の30年間を活用できますよね。
先生にとって社会基盤学とは何でしょうか?
 これだけの都市をいかに設計、維持、発展させるかということは極めて挑戦的な課題で。もちろん過去に蓄積された知を使わずにこの課題を解くことはできませんが、経験だけでも解けないことも明らかです。その方法論を探る学問が社会基盤学だと思っています。どこかで最先端の知を集中しないと、これからの都市の設計、維持、発展はできない時代になってきたと考えています。
 たとえば自動車産業が発展した裏側には、自動車保険があります。保険を抜きにして今の車社会はなかったかもしれません。もしかしたら、都市も、保険や投資・信託のような新しいプレーヤーと結びつくことで維持、発展できるところがあるかもしれません。旧来の土木工学は行政と建設業界の顧客しかありませんでしたが、今の社会基盤学では分野の異なる産業や国際機関など。様々なプレーヤーと協働するようになった。そこは土木工学から社会基盤学になった違いのひとつであるように思っています。
最後に学生へメッセージをお願いします
 中島敦の「悟浄歎異」には「所与を必然」、「所与を完全」、「所与を自由」という言葉が出てきます。これは私の座右の銘です。現在の状況は何らかの理由があって今の形になっている。欠けているものがあるように見えるかもしれないが、実は欠けたものは何もない。そして,何かをするためにそのような状況にとらわれることはない、とこの言葉を解釈しています。予定調和的に空気を読んでうまく生きるよりも、自分勝手と思われても自由であるべき、と思っています。
 極論すれば、もしかしたら学問はなくてもよくて、研究や開発をしなくても、今の社会は維持されるかもしれない。しかし、どこかで誰かがチャレンジしないと先に進まない、つまり、人は宇宙には行かなかったかもしれないし、超高層ビルも建たない。なんだったら人間は最初必然的に四本足だったわけだから、みんなで「四本足でいいじゃないか」と流れを読んで、四本足で楽しく生きていたかもしれない。でもそんなサルの世界で誰かが「オレは自由だ、二本足でいくんだ」っていって二本足になったのかもしれない。そういう自由にロマンを感じて欲しいなと思います。
 チャレンジとか、「生意気であれ」とか、「心臓に毛を生やせ」とかね(笑) そういう言葉が大好きなんです。失敗を恐れてまとまっているよりは、むちゃくちゃ失敗した方が絶対いいと思います。私も相当いろんなところで失敗して、無駄なことばっかりしていますから。頭抱えて泣きたくなるようなことばっかりしています。だから若者には、ただただ、失敗を恐れずにやりたいと思ったらやっちゃえよ、と言いたいですね。