2001年学科長から駒場教養学部の皆さんへ

2000年当初に記述された以下の内容は、現在、ほぼ実現の運びとなりました。現時点で駒場教養学部の学生諸君には、詳細が東大土木の教育に掲載されていますので、これらを参照してください。


カリキュラムの改訂を進めています

社会基盤工学専攻・土木工学科では,現在,カリキュラムの改訂の議論を行なっています。皆さんがご覧になる土木工学科の履修要目や卒業要件は,およそ数年前に改訂を行なったものです。これを今後,以下の切り口で強化,改定していきたいと考えております。

 本年度に進学される皆さんには,現在の便覧等に記載されている時間割が基本的に適用されますが,多くの方が修士課程まで進学されます現実を鑑みれば,修士に進学される時点では現在,議論中のカリキュラム改定の対象者でもある,と私どもは認識しています。そこで,大まかな議論の様子を中間報告としてお伝えします。


進学振り分けの2コースの目指すもの

土木工学科/社会基盤工学専攻では,社会基盤工学と社会基盤システム計画の2コースを進学振り分け部門の入り口として開けています。

 学生の皆さんには,社会基盤整備のハード技術のイメージが強いかと思います。勿論,社会資本自体の建設・整備技術は言うに及ばす,国土・地域・交通計画と政策立案,プロジェクト構築/評価や建設マネジメントも重要な柱であり,都市や地域において景観的にも歴史的,文化的にも後世に残る景観設計を展開することも我々の責務です。

 これらの総合教育を提供してきましたが,今後とも,ハード/ソフト両面から,国民/市民の快適な生活環境の実現と持続発展可能な経済活動を支える総合工学の体系を目指しています。社会基盤のハードとシステムの両者を計画,執行,運営するエンジニアリングプランナー,マネージャー,デザイナー,開発者・オーガナイザーの育成を教育目標としており,大きく分けて2つの進学コースを開放しているスタンスに変化はありません。

 両コースの卒業要件や限定選択等は,ぞれぞれに異なります(必修は2科目のみ)。これまで卒業論文の配属研究室と進学コースとを関連づけておりませんでしたが,卒業論文配属の研究室も,両コースの違いが明確にでる方向で議論を進め,準備をしています。システム計画で進学してきた諸君は,計画分野を主たる研究活動とする4研究室へ優先的に,また,社会基盤工学で進学された諸君は,ハード系6研究室に優先して卒論ができる,といった事が論点です。


議論のトピック : 国際/環境/情報で活躍する土木

社会基盤工学の総合エンジニア(統括主任技術者), 社会基盤計画・マネジメントに従事するプランナー・政策立案者・行政官, 技術研究開発を主導する人材の3者は,教育プログラムの目指す人材のモデルとして設定して,カリキュラムを提供してきました。さらに横断的観点から,国際人として活躍できる人材育成のベクトルを教育システムに取り入れることを真剣に検討しています。

 社会基盤の整備計画と事業執行,評価・維持管理は,次世代の世界経済の牽引車であるアジアその他の地域で急速に展開しています。土木技術者の活動の拡がりは,国境を越えて世界中に届いています。本学科を15?20年前に卒業した中堅技術者の動静を調べてみますと,期間の長短はありますが,社会基盤整備計画,政策立案,事業執行,評価,人材育成といった関連で,約9割の方々が何等かの形でアジア諸国などでキャリアを積み上げておられます。我が国の土木工学の責務は単に国内に留まらず,アジアを含む世界に及びます。

 学科・専攻では,社会資本形成に深く関わる国際機関での1年間のインターンシップの実現に努力し,将来,国際公務員として活躍しようとする諸君のニーズにも応えていきたいと考えています。先輩諸氏のご協力を得て,まず間違いなくこの機会を希望者に対して(例えばアジア開発銀行など),修士課程において提供できる目処を得ています。幸い,社会基盤工学専攻では,約80名のアジアや欧州のトップクラスの大学を最上位で卒業した留学生が日本人諸君ともども,日々の勉学に勤しんでいます。多くの教官も海外援助や技術協力などを通じて,貢献した経験や経歴を有しています。専門教官による技術英語の講義も,学部および大学院で開講されており,学ぶ環境はほぼ,揃っていると自負しています。

 環境と情報は次の世紀の重要キーワードであることはまちがいありません。横断方向にカリキュラムを充実させるもう一つのベクトルです。

 建設事業はご存じの通り,GNPの1割といった巨大なスケールを有しています。今後,都市や地域の再生更新,長寿命化やそれに資する国土政策の策定など,国土交通省の再編成を待つまでもなく、極めて緊急度の高い課題が山積しています。この中で環境保全,環境負荷低減,情報インフラ整備,地球規模の空間情報の構築などが急を要することは,しばしば報道されていることでもあります。

 我々の対象は地域・都市のサイズに留まらず,地球規模の大気水循環,海洋海岸環境,河川流域環境などのスケールを統括して考えなければなりません。それがゆえに巨大な空間を繋ぐ情報システムが,また大きな意味を持つのです。これらの付託に応える人材の育成に,東京大学工学部の一員として責任を負うべく,改訂の詰めを進めています。


卒業後に広がる世界

ご存じの通り,土木工学科は工学部で最も長い歴史を有する学科と学問領域です。本年で120余年の歴史があり,7000人を越える人材が巣立ち,官界・産業界・学会・政界に多くのリーダーを輩出してきました。その貢献により,今日において卒業生諸君が社会で活躍できる場は,さまざまに用意されているといえます(勿論,この環境に胡座をかいてはいけません)。

社会基盤工学/土木工学の一つの特性=横断型総合工学=ゆえに,未開拓分野の学問であっても,それを受け入れて活用できる場所が必ず存在するという強みがあります。その統括力や異業種に跨がるプロジェクトのリーダーとして,土木工学科の卒業生は,実力・実績ともに誇れるものがあります(詳しくは専攻学科の外部評価のページをみて下さい)。よって,安心して,学問と知において大いに冒険をしてほしいと願っています。それを許容する卒業要件となっていますし,この要素を必ず新カリキュラムでも踏襲します。知の冒険をしたが故に卒業後に不利益を被る,というリスクは,相当に小さいと言えます。

有能なる女性卒業生の活躍も心強い状況です。20名を越える女性卒業生の進路をみても,産業界,官界(建設省など),学界(本学科専任教官含む),それぞれに偏りなく就職し,活躍しています。女性だから土木の分野では先が困る,という状況には幸いにして現在はありません。

カリキュラムの詳細な議論を書くには至りませんでしたが,現在の学科教官内での議論の様子をとりまとめてみました。まだ決定したものではなく,あくまで中間報告ですが,大筋で私達の考えている方向に自信をもって進んでいます。適時,学科の近況をお知らせしようと思います。